事案の概要
X社は定款変更により種類株式発行となるとともに発行済みの普通株式に全部取得条項を付し、全部取得条項付普通株式を取得することを決議しました。AさんはX社の普通株式を有する株主でしたが、X社が定めた全部取得条項付株式の取得の対価が納得できずご相談に来られました。
解決までの流れ
株主総会において全部取得条項付株式の取得は承認される見込みであったため、X社に対して事前に議案に反対する旨の通知をし、かつ、株主総会においても反対し、株式価格決定の申立てを行いました。
本件では、株式の価格を決定するために鑑定を行うと、鑑定費用の負担によりAさんの手元に残る資金が何も行動しない場合に比べ減少するリスクも想定されました。一方、本件では株式の評価方法(DCF法なのか純資産法なのかなど)については双方一致しており、将来の事象に対する事実認定のみが争点となる事案でした。
そこで、本件の争点は事実認定の問題であり株式の鑑定をしたとしても鑑定人の事実認定自体が争点になり得るため、鑑定によらずに判断するべきことを求め、X社もかかる方針に異議がなかったため、鑑定人を採用することなく決定が出されました。
裁判所が出した結論は、Aさんの主張額を下回るものの、X社が定めた全部取得条項付株式の取得の対価の2倍超となる価格となりました。
コメント
株式買取価格決定事件の場合、非上場会社の株式の評価は専門的な知見が必要なことから裁判所は鑑定人を採用する傾向にあります。しかし、本件では、鑑定人としての専門的な知見よりも事実認定が問題になることを強調することにより鑑定人の採用を回避できました。